1.労働契約~入社は「契約」
長く苦しかった転職活動をくぐり抜け、やっと内定が出た・・・
このような状況だと、どうしても「採用していただいた」「雇っていただいた」という気分になってしまいます。
しかし、こういったへりくだった感覚でいると、いいように酷使される可能性もあります。
そもそも、ある会社に入社するというのは「雇いっていただいた」という面も確かにあるのですが、法律上はあくまで会社と労働者が対等の立場で交わす「契約」だからです。
入社時に交わす契約を、労働契約といいます。
労働契約とは、
1.労働者の側から見れば
あらかじめ合意した労働条件に従って、会社側からの指揮監督下で労働力を提供する義務を負うこと
で、
2.会社の側から見れば
労働者から提供された労働力の対価として、あらかじめ合意した労働条件に従って賃金を支払う義務を負うこと
を指します。
こういった内容を見ると、入社時に会社が労働条件を明示しなければならない理由がお分かりいただけるかと思います。
さて、契約というと労働契約書の作成が義務づけられているように思えます。
しかし、労働契約の締結にあたっては、法律上、そういった書類の作成義務はありません。
つまり、口頭だけの合意でも労働契約は成立します。
とはいえ、記憶違いもありますし、何より書面がないのは後々トラブルを生む最大要因になります。
このため、ほとんどの会社では労働契約書を作成しています。
一般的には、会社と労働者の両方が署名、押印の上、割り印をした2枚の契約書を作成。
会社と労働者がそれぞれ1枚づつ手元に保管するといった形をとります。
当たり前のようですが、逆にいうと、こういった手続きをしない会社だと、「入ってみたら、面接で言われた給料の半分しかなかった」などというトラブルが起きても解決が困難です。
理由は、書面による証拠がなく、「給与額は倍の額を言われていた」といってもそれを立証することが極端に難しいからです。
労働契約書の作成すらしない会社は、この手のトラブルをよく起こしています。
内定をもらっても、辞退した方がよいかも知れません。
2.労働条件を勝手に悪化させられた
ここまでお話してきたことをざっとまとめてみましょう。
1.採用にあたっては、会社は労働条件を労働者に明示する必要がある
2.労働条件には、労働基準法上、どの会社にも明示が義務づけられているものと、会社が定めている場合のみ明示する必要があるものに分けられる
3.労働条件は、法律で明示が義務づけられているものに関しては書面で労働者に手渡す必要がある
4.会社が明示した労働条件に対して労働者が合意した場合、労働契約が成立する
5.労働契約書は、法律上作成の義務はないがトラブル防止の観点から作成するのが通例
さて、労働条件を確認せずに入社するのは論外ですが、入社前にしっかり確認して納得の上で入社したにも関わらず、労働条件が知らない間に悪化していた、というトラブルも頻繁に起きています。
給料が入社前に説明を受けていたよりもずっと少なかったという話はいくらでもあります。
後から説明を求めると「あの給与額は、月100時間の残業手当込みだ」などという信じられない回答をされる会社は、上場企業にも存在するのです。
さて、このような事態に巻き込まれたときにはどういった対処をすればよいのでしょうか?
まず、労働者は会社側に労働契約を守ることを要求する権利があります。
そして、要求が受け入れられない場合は、会社側に損害賠償請求をすることも可能です。
といっても、要求しただけで受け入れるような会社は最初からそのようなえげつない真似はしません。
結局は裁判所などの国家権力を通じて強制するしかないのですが、それには手間も時間も費用もかかります。
労働契約が守られなかった場合は、労働契約を一方的に解除できますので、これを使って辞めるのが現実的な解決方法といえるでしょう。
「そんな理屈こねなくても、辞めたければ辞めればいいのではないですか?」
いえ。
すぐに辞めようとすると、逆に「お前がすぐ辞めるせいで、また人を募集しなければならない。求人広告費用を払え」などという脅しが会社側から来ることがあります。
こういった恐喝まがいの要求を突っぱねるためには、こちらも理論武装しておく必要があるのです。
「こいつは知恵をつけているので、あまり無茶をするとややこしいことになりそうだ」
と会社側に思わせるだけで、理不尽な要求を次から次へと突きつけられる可能性は激減するのです。
3.入社したら、就業規則を確認
再就職活動も終わり、晴れて再就職。
転職先の会社へ初出社する日も近づいて来ました。
出社したら、まず行っておきたいのが、就業規則を確認することです。
そもそも、就業規則とは何でしょうか?
一言でいうと、職場のルール集です。
具体的には、職場を運営するにあたって必要となる下記のような規律を定め、それを書面として作成したものになります。
・出勤日や始業時間、終業時間
・休憩の取り方
・休日はいつか、特別休暇はあるのか
・賃金や賞与、手当の決め方、計算方法
・退職するときの手続き
・懲戒事由
このルールに従って会社は運営されており、仮に社長であってもこのルールを自分勝手に変更することはできません。
例えば、「あの社員が嫌いだったから、退職金は払わない」といった感情的な処分はできないのです。
就業規則は、10人以上の従業員が働いている職場であれば、作成と従業員への周知が義務づけられています。
逆にいうと、10人以上の規模の会社であるにも関わらず就業規則が備え付けられていない会社は労働基準法を守っていないことになり、警戒した方がよいでしょう。
ちなみに、作成した就業規則は、労働基準監督署への届け出も義務づけられています。
就業規則を確認する場合に気をつけたいのが、「入社時に交わした労働契約と矛盾する点がないかどうか?」です。
なぜかというと、労働契約よりも就業規則の規定の方が強いからで、労働契約の内容よりも就業規則の方が条件が悪い場合、入社後に労働条件を引き下げられる恐れがあるからです。
4.まとめ
・入社は、法律的にいうと「契約」。条件をきっちり確認しておくことは当たり前。
・労働契約書をもらっておかないと、「入社のときに言われていた給料と違う」など、後々トラブルに発展しやすい
・労働条件を悪い方向に変更するには、労働者の同意が必要。
・就業規則は「会社のルールブック」。社長でも、この就業規則というルールを守る義務がある。