君の将来のために自己都合退職

1.君の将来のために自己都合退職

「君、そろそろ次の身の振り方を考えた方がいいんじゃないか」

考えたくはありませんが、このように上司から告げられることは珍しくありません。

その笑顔が逆に怖い。
その笑顔が逆に怖い。

上司というのは自己保身に長けた人が多いですから(責任を取る人は出世できません)、

はっきりと「辞めてくれ」とは言いませんが、

これは実質的には退職勧奨か解雇に該当します。

 

しかし、「身の振り方を考えろ」と言われるとほとんどの人は大きなショックを受けて、「そんなことを言われるような会社なら、辞めてやる」とばかりに退職してしまいます。

さて、このような場合、気になるのは退職理由がどうなるかです。

退職勧奨や解雇なら、会社都合退職ということになって、失業保険も優遇されるはずです。

ですが、ここにもワナが存在します。

「君の将来のために、自己都合退職にしておくよ」
何気なくそう切り出してくる会社は、あきれるほど多いのです。

会社都合退職だと、再就職に不利になって自己都合退職だと不利にならない。

そのような思い込みを利用して、「辞めさせたのに、社員が自分から辞めたような体裁を整える」というわけです。

会社がなぜこのような話を切り出してくるのかというと、本当に退職社員のことを考えているわけではありません。

会社都合退職扱いにすると、退職金を多く支払わなければならなかったり、国から雇用関係の補助金を受けている場合にその対象から外されたり、「会社にとって」不都合なことが起きるから、というのが本当の理由です。

懲戒解雇ならともかく、普通の解雇であればそこまで再就職が不利になるということはありません。

懲戒解雇はさすがにこたえる。
懲戒解雇はさすがにこたえる。

これは、「環境に問題がないのに、自分の意思で辞めた」人と「環境が許さず、やむを得ず退職に追い込まれた」人を比べてみて、面接官がどちらを評価するかと考えると分かりやすいでしょう。

面接官としては、せっかく採用した人に辞められることを最も嫌がります。

ですので、自分の意思ではなく「辞めざるを得なかった」人に対して問答無用で低い評価をつけることはありません。

そのような人は、予想外のタイミングで辞めると言い出す可能性が低いからです。

解雇=人生の落伍者 というイメージを持っていると、会社からの「君の将来のために自己都合退職で処理しておくよ」という大ウソに引っかかってしまいます。

要注意です。


もうひとつ、退職にあたって会社が仕掛けてくる手口があります。

こちらについては、別の項目で詳しく解説しています。

ご興味がある方は、

退職後に腹が立つこと

をお読みください。


 

 

2.試用期間中の雇用保険

「3ヶ月は試用期間ですから、その期間は雇用保険には加入させません」

入社した後に、このような説明を受けて驚いたという経験をした方も多いようです。

このような取り扱いは、割と頻繁に行われていますが、果たして根拠があるのでしょうか。

答えは、「一切の根拠はありません」です。

それどころか、会社は雇用保険法違反に問われることになります。

違法なんですか?
違法なんですか?

雇用保険に加入するかどうかは、あくまで「週の労働時間(20時間以上)」と「雇用危険(31日以上の継続雇用見込み)」によって決定されます。

そこに、「試用期間であるかどうか」などという判断基準を会社独自の判断で持ち込んでも、それは違法行為にしかならないのです。

前項でお話した「パート・アルバイトなので雇用保険には加入させません」という言い分も同じですが、会社はもっともらしい理由をつけて雇用保険へなるべく加入させないように誘導してきます。

これは、なるべく安い費用で人を雇いたいから、という本音の現れに他なりません。

雇用保険料は給与の1%前後ですが、そのうち半分以上は、会社が支払っているからです。

といっても数百円から高くても5千円未満の話で、細々とした節約のために法律違反を延々と続けるのは問題があります。

さて、試用期間で気をつけておきたいことをもうひとつ。

それは、「入社後14日間は、解雇されても文句を言えない」ということです。

通常、解雇された場合は不当解雇として争うこともできますし、給料30日分の解雇予告手当をもらうこともできます。

しかし、入社から14日間に限っては、このような基本的な権利も認められていないのです。

「酷い会社にあたってしまった」
と気づいても、入社後14日間はおとなしく過ごした方が得かも知れません。

その後なら、上司の機嫌を損ねて「クビだ!」と言われても上記の解雇予告手当など、いろいろなお金を請求する権利が発生しているからです。

3.まとめ

・「君の将来のために、自己都合退職でどうだ」と持ちかけてくる会社は多い。

しかし、そのような提案を受け入れるのが損をするだけ。

会社が、辞めていく人間の将来を本気で心配することなどまずないと考えるぐらいがちょうどいい。

・自己都合退職を推進したいのは、会社都合退職だと会社が損するから、というシンプルな理由。

・試用期間中であっても、会社は社員を雇用保険に加入させる義務がある。

・試用期間中は雇用保険に加入させない、という会社がいまだに存在するが、完全に違法。

・「正式採用後、雇用保険に加入させる」という説明をする上司は、まともに法律を守る気がないか、極端に物を知らないのでそのような会社は見切りをつけた方がよいかも知れない。