1.解雇禁止の場合
解雇は、いつでも会社が自由に行えるというわけではありません。
次のような状態にある社員に対しては、会社は解雇を行うことはできません。
1.業務上の負傷・疾病による休業期間と、その後30日間
業務を行う過程でケガをしたり病気になり、休職している期間は解雇することは禁止されています。
また、休職が明けて30日の間も、解雇はできません。
2.産前産後の休業期間と、その後30日間
産前産後の休業期間は、解雇は禁止されています。
また、休職が明けて30日の間も、解雇はできません。
3.定年・退職・解雇についての男女の差別取扱いの場合
女性だけ定年が早かったり、男性だけ解雇するなど、男女で差別的な取り扱いがある場合も、解雇は無効となります。
4.解雇の実質的理由が次による場合
(1)事業場の労働基準法、労働安全衛生法などの違反の労基署への申告
(2)労働組合の結成、加入、正当な活動
(3)女性労働者の都道府県労働局長への紛争解決援助の申出、調停の申請
(4)育児・介護休業の申出、休業
(5)労働者の国籍、信条、社会的身分
(5)を除いては、労働者自身の行動を経営者がうとましく思って会社から排除する行為で、禁止されてはいますが、実際のところは横行しています。
このような理由で解雇を言い渡すのは、解雇そのものが不当ですので従う必要はありません。
とはいえ、会社は「違う理由を無理矢理見つけてきて」解雇に追い込もうとしてきます。
おおっぴらに「育児休暇を取るような社員はいらないんだよ。辞めてくれ」というと大問題になるからです。
このため、解雇の「実質的理由」が重要となるのです。
2.即時解雇
解雇の手順として、原則として30日以上前に解雇予告することが必要ということはすでに述べました。
しかし、これは絶対条件ではありません。
例外的ですが、即時解雇が認められていることがあるのです。
まず、天災や、その他やむを得ない理由で事業継続が不可能な事態に陥った場合です。
このような場合は会社そのものが運営できないのですから、従業員を雇ったままにしていても仕事がなく、仕事がないのですから売上も上がらず、給与を支払い続けることもできません。
そのため、解雇が認められているのです。
東日本大震災のときは、このような「事業継続不可能」な会社が多く出てしまいましたので、解雇されてしまった人が大勢いました。
次に、社員に重大な悪質行為があったことを理由に解雇する場合です。
例えば、会社のお金を横領したり、犯罪行為で逮捕されたといった例があげられます。
この場合、即時解雇が可能です。
しかし、事前に即時解雇することについて、労働基準監督署長の認定を受けなければなりません。
会社が勝手に即時解雇をすることは認められていないのです。
しかし、仮に社員が犯罪を犯して逮捕されたとしても、事前に労働基準監督署長に認定申請をする会社は滅多にありません。
手順そのものを知らないこともありますし、手続きを面倒臭がるからです。
このため、認定を受けずに解雇してしまう会社が後を絶ちません。
しかし、こういった手続きを怠っている状態で即時解雇することは認められていません。
このため、逮捕されたことを理由にその日のうちに懲戒解雇された元社員であっても、30日分の解雇予告手当を請求することが可能です。
請求された会社の側としては「いくら何でも、理不尽過ぎる」と感じると思いますが、正当な手続きを踏まずに即日解雇した以上、その主張は認められないのです。
3.解雇の正当性
解雇といっても、会社が「この社員を解雇しよう」と思えば自由にクビを切れるわけではありません。
気に入らないから解雇する、などということを認めてしまうと、クビ切りされる人だらけになってしまうからです。
解雇の正当性が認められるには、非常に厳しい条件を満たす必要があるのです。
具体的には、次のようになります。
1.解雇に、客観的に見て合理的な理由がある
2.解雇が、社会通念上相当である
これは、労働契約法の第16条、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」で明文化されています。
1.の「合理的な理由」というのは、一般的な感覚で判断して、「そこまでの理由なら解雇されても仕方ない」と思える理由があることを指します。
2.の「社会通念上相当である」は、解雇の理由と、解雇という結果にバランスが取れていることを指します。
ちょっと気にくわないという程度の理由で解雇するのは、解雇した理由と解雇という結果のバランスが取れませんから、その解雇には「合理的な理由」も「相当性」も認められないのです。
世の中には、少し営業成績が悪い程度の理由で解雇する会社が多くありますが、こういった解雇には根拠がない、ということになります。
解雇の正当性が認められるパターンとしては、下記の3つが挙げられます。
1.労働者が働くことができないか、あるいは適格性を著しく欠く場合
2.経営不振が原因で人員整理、合理化が実施され、結果として職種がなくなり、他職種への配置転換も不可能な場合など、経営上の必要性によるもの
3.労働者に重大・悪質な服務規律違反の行為があったとき
今回は、これら3つのパターンについて、少し詳しく見ていきましょう。
1.労働者が働くことができないか、あるいは適格性を著しく欠く場合
具体的には、下記の状況に該当する場合です。
(1)身体または精神の故障で全く業務に耐えられないとき
(2)勤務成績、態度が著しく不良で就業に適しないとき
(3)技能。能率が著しく劣り、就業に適しないとき
(4)協調性を著しく欠き会社に被害を及ぼすとき
(5)重要な経歴詐称により信頼関係が失われたとき
どの項目にも、「全く」「著しく」「重大な」といった強調する言葉が入っていることに注意してください。
少し体の調子が悪い、少し技能が劣る、といった程度では、その解雇には合理的な理由も相当性も成り立たず、正当性は認められません。
2.経営不振が原因で人員整理、合理化が実施され、結果として職種がなくなり、他職種への配置転換も不可能な場合など、経営上の必要性によるもの
「他業種への配置転換も不可能」という条件が加わっていることに注意してください。
「営業職に向かないからクビ」といった切り方は認められていないということです。
3.労働者に重大・悪質な服務規律違反の行為があったとき
これも、「重大・悪質」とついていることに気をつけて下さい。
例えば、たまたま営業をさぼって近くの公園で寝ていた・・・という程度で解雇になるのは重すぎるということです。
こういった場合は、訓戒や懲戒処分(懲戒解雇ではありません)が適当でしょう。
もちろん、日常的に職務怠慢をしていたのであれば、解雇の正当性が認められる可能性が出てきます。