1.退職後の健康保険
会社を辞めたら、国民健康保険に加入する。
これを当たり前のように思っている人が多いのですが、実は退職後の健康保険には、もうひとつの選択肢が存在します。
「任意継続」と呼ばれる制度です。
任意継続は、今まで加入していた健康保険組合に引き続き加入し続ける制度です。
正確にいうと、退職の翌日にいったん今まで所属していた健康保険組合からは脱退している扱いになりますから「引き続き加入」というのは少し違いますが、細かい違いは意識しなくても問題にはならないでしょう。
さて、任意継続をすると、どんな点にメリットがあるのでしょうか。
実は、メリットがある場合とない場合があり、必ず任意継続が優れているというわけではありません。
理由は、健康保険組合によって、大きく保険料が違ってくるからです。
国民健康保険も任意継続も、病院にかかったときの自己負担割合は3割で差がありません。
他にも小さな差違はありますが、もっとも大きいのがこの保険料の差です。
このため、国民健康保険に加入するか、それとも任意継続にするかは、毎月支払う保険料で決めて構わないでしょう。
ここまで分かれば、後はそれぞれの保険料を調べるだけです。
といっても、保険料の計算式は複雑怪奇で、自分で計算をしようとしてもまず正確な数字にたどり着くことはできません。
ここは、実際に保険業務を行っているところに問い合わせてしまうのが一番です。
具体的には、国民健康保険は市区町村の国民健康保険課、任意継続の場合は健康保険組合です。
それぞれで算出してもらった保険料を比べて、負担が少ない方に加入するのがお勧めです。
2.任意継続の継続は厳しい
前回、退職後の健康保険には、任意継続という選択肢もあることをお話しました。
さて、この任意継続、実は「なるべく利用してもらたくない」と国は考えています。
そのため、あの手この手で制度に加入させないようにしよう、加入してしまったら早めに出ていってもらおう、とあの手この手を使ってきます。
具体的に見てきましょう。
まず、加入ですが、退職後20日以内に加入手続きを行わなければなりません。
1日でも過ぎれば、加入は一切認められません。
また、この20日は営業日ではなく暦です。
年末年始やゴールデンウィークなど、平日が少ない時期でも容赦なく適用されますので、退職時期がその辺りになりそうな人はあらかじめ手続きにかかる時間を計算しておきましょう。
他の制度だと、本人が病気になったなどの場合は遅れても特例で加入させてもらうことができたりしますが、任意継続の場合はそれも認められていません。
延長が認められるのは、天災など、受付側がまともに処理にあたれなくなったような特殊事情があった場合に限られ、それ以外はいかなる理由があろうと却下されます。
なお、加入した後も、何かあるとすぐに追い出されます。
支払いが1日でも遅れたら、その時点で脱退扱いになるのです。
しかも、通常は認められている口座引き落としすら認められていません。
窓口に持って行くか、ATMなどから振り込みをするしかないのです。
1回も遅れないように払い続けたとしても、任意継続が2年になった時点で強制的に脱退させられます。
このように、任意継続はありとあらゆる場所に追い出しシステムが組み込まれています。
だからといって国民健康保険に比べて格段に有利とも限らず、選択肢としては微妙なところです。
とはいえ、任意継続から国民健康保険への移行は簡単でもその逆はできません。
将来的に選択肢を多くしておきたい場合、最初は任意継続にしてもいいでしょう。
(ただし、毎月の保険料だけはあらかじめ比較しておきましょう)
3.退職後の住民税
会社を辞めると、当然ですが収入はゼロになります。
収入がゼロということは、所得税もゼロ円です。
では、失業中は税金ゼロ生活になるかというと、実はそうではありません。
住民税は、失業中であろうが、容赦なく請求されます。
なぜかというと、住民税は所得税と違い、前年の所得に対してかかってくる「後払い税」だからです。
サラリーマン時代に高収入だった人が退職すると、翌年に請求される住民税が恐ろしく高額になることも珍しくありません。
手元に貯金が残っていない場合、かなり困ったことになります。
さて、予想もしない高額の住民税を要求されて、「払えないものは仕方ない」と放置してしまう人がいます。
しかし、これは無駄な抵抗と言わざるを得ません。
住民税の取り立ては非常に過酷で、払わないと預金を差し押さえてでも持って行かれてしまいます。
預金がない場合、再就職したとたんに再就職先に給与差し押さえの通知が届くこともあります。
どの道、放置していると延滞金という高額の利息もつけられてしまいますので、何からの形で正面から向き合う必要があります。
窓口に出向いて「支払う意思はあるが、払えない」といえば、減免される可能性もあります。
この減免措置については、自治体によって扱いが大きく異なりますので「こうすれば、必ず減額できる」という必勝法はありません。
しかし、減免は認められなくても支払いを待ってもらうことは比較的認められやすいですから、月々の負担を減らすことはさほど難しくありません。
4.まとめ
・退職後の健康保険は、国民健康保険以外にも、任意継続という選択肢もある。
保険料が安い方を選べばよい
・任意継続はちょっとしたことで脱退させられるので、支払いが遅れないように注意
・失業中で無収入でも、住民税は請求される。住民税は昨年の所得に応じて請求されるため、所得税と違い失業中でも支払わなければならない。