退職後の健康保険と年金

1.社会保険とは

「社会保険」という言葉を耳にしたことがない、という人はいないと思います。

しかし、社会保険とは何か?と聞かれると、多くの方は説明することはできないのではないでしょうか。

社会保険とは、国が運営する保険制度全般を指す言葉です。
社会保険という、そのものズバリの名称の保険制度はありません。

退職後の社会保険料も計算しておきましょう。
退職後の社会保険料も計算しておきましょう。

国が運営するというだけあって、国民全員が強制的に加入することになっています。

社会保険の目的は、国民が困難に直面したときに、一定額の給付を行うことで生活の安定を図ることです。

困難とは、病気やケガ、失業、障害の発生や出産・育児、老齢などが挙げられます。

出産や老齢を「困難」というのは違和感を感じるかも知れませんが、要するに「健康でバリバリ仕事ができるときに比べて、収入が落ち込んだり出費がかさんだりで、生活の維持が困難になる」状況を総称していると考えて下さい。

社会保険の内訳は、下記の4つになっています。
・医療保険
・年金保険
・雇用保険
・労災保険

医療保険は、民間企業の社員が加入する健康保険のほか、退職者などが加入する国民健康保険、その他船員保険、共済保険などに分かれています。

年金保険は、サラリーマンが加入している厚生年金や自営業などが加入する国民年金、公務員が加入する共済年金と、こちらもいくつかのグループに分かれています。

雇用保険は、失業時に当面の生活費を支給し、再就職活動に専念してもらうことを目的とした保険制度です。

労災保険は、仕事中にケガや病気で働けなくなり、収入が途絶えた場合などに給付金を支給する制度です。

さて、退職するとサラリーマンとしての立場を失います。
すると、こういった社会保険も連動して別のグループに移ることになります。

しかも、移行する手続きも全部自分でやらなければなりません。

制度をおおまかにでも理解していないと、こういった手続きを忘れがちになりますが、何もしないと様々な不具合を生むことになります。

また、退職直後でないと加入できない保険などもあります。
期限を過ぎてから加入したいと考えても、いっさい認めてもらえません。

こういったことがないよう、退職前にきっちり制度を理解して移行に備えておきましょう。

2.退職後の健康保険

退職後、どの健康保険制度に加入するかは、自分で選ばなければなりません。

会社を辞めると、今まで加入していた健康保険からは脱退した扱いとなります。

健康保険に加入しない、という選択は認められていませんので、改めて何らかの健康保険への加入手続きをとらなければなりません。

健康保険として代表的なのが、国民健康保険です。

国民健康保険の場合、運営が市区町村ですので、加入手続きは市役所、区役所など自治体の窓口で行います。

国民健康保険の保険料は、さほど年収がなかった場合でも高額になる場合が多く、退職者の頭痛の種になっています。

なんでこんなに高いの??
なんでこんなに高いの??

加入してから、保険料の負担に耐えられない、という事態にならないよう、あらかじめ毎月の保険料がいくらになるかを確認しておいた方が無難です。

第2の選択肢が、在職中の健康保険に継続加入することです。
在職中の健康保険には、退職後、最長で2年間はとどまることが可能です。

これを任意継続といいます。

保険料は、在職中の2倍に上がります。

正確には保険料は据え置きなのですが、在職中は会社が健康保険料の半分を負担していますので、その支払い分まで自己負担となるからです。

健康保険を任意継続する場合、退職日の翌日を1日目とカウントして、20日以内に申請する必要があります。

1日でも遅れると、加入は認められません。

どちらも、病院の窓口で支払う医療費自己負担は3割で同じですから、単純に保険料が安い方を選ぶとよいでしょう。

3.失業中の年金

失業中、年金保険料の支払いはどうなるのでしょうか?

サラリーマンや公務員の場合、在職中は厚生年金・共済年金に加入しています。
この状態を、第2号被保険者といいます。

しかし、退職後は、厚生年金から脱退した扱いとなり、国民年金のみとなります。
これを、第1号被保険者への種別変更といいます。

手続きの変更は、自分で行わなければなりません。
窓口は、市区町村の国民年金課になります。

なお、定年退職をされた方は、国民年金への変更手続きをする必要はありません。

国民健康保険の金額は、月額1万5千円強で、最終的には1万6,900円になる予定です。

この金額は、収入が途絶えている状態では決して軽いものではありません。
しかし、年金未加入の期間があると、年金をもらう段階になって減額されたり、最悪の場合、年金の受給資格そのものがなくなる可能性があります。

年金を受給するには、25年間の支払い実績が必要だからです。
これを10年に縮めようという動きもありますが、まだ導入には時間がかかりそうな状況です。

なお、国民年金に加入する前に死亡したり障害を負った場合、本来もらえるはずだった遺族年金や障害年金が受給できなくなります。

どのみち、加入した時点で過去にさかのぼって支払うことになりますから、払う額は未加入期間があっても変わりません。

むしろ、遅延損害金という、「支払いが遅れたことに対する罰金的な金利」も付け加えて支払わなければならないので損です。

ちなみにこの遅延損害金、今どきクレジット会社でも要求しないような恐ろしく高い利率になっています。

 

4.国民年金保険料の減免

3.では、失業中の年金加入について、基本的なことをお話しました。

簡単にまとめると、下記のようになります。

・退職後は、厚生年金を脱退して国民年金保険に加入する
・年金保険料は1万5千円前後。最終的には、1万6,900円にまで上がる予定
・年金は最低25年支払わないと、もらうことができない
・年金未加入時に死亡したり障害を負うと、本当はもらえるはずだった遺族年金や障害年金がもらえなくなる

最後の2つは、未加入を続けた場合のデメリットです。
余裕があれば、加入した方がよいのは誰にでもお分かりいただけるかと思います。
(「年金なんか、どうせ返ってこない」という話は別として、制度上のお話です)

それでも、どうしても支払いが苦しい場合、多少のリスクには目をつぶって未加入を貫くべきでしょうか?

いえ。それは賢い選択とはいえません。

なぜなら、国民年金保険料の一部、または全部を免除してもらうことも可能だからです。

支払い、負けてもらえないかな?
支払い、負けてもらえないかな?

この減免は、自動的に適用されることはありません。
本人の申請に基づいて、はじめて適用されることになっています。

つまり、本来なら国民年金保険料の支払いを免除してもらえたような人でも、手続きをしなければ毎月保険料を支払わなくてはならないのです。

なお、保険料の支払いを減免された期間も「年金をもらえるかどうか?」を判定する期間(25年必要)に参入されます。

しかし、支払いを免除された分、年金の額は減ってしまいます。
これは仕方ない部分ですので、あきらめるしかありません。

後から支払うこともできますが、期間が限定されています。

5.まとめ

・退職後は、健康保険や年金といった社会保険は自分で手続きし、自分で納付していく必要がある。

・退職後の健康保険は、国民健康保険と任意継続の2択。

・失業中の年金は、国民年金のみで、選択の余地はない

・国民年金は、支払いを免除・減額してもらえる可能性もある

社会保険については面倒な手続きは全部、会社が代行してくれていたことに気付きます。

もちろん、それは「保険料を取りっぱぐれないよう」に国が制度を設計したのが理由ですが。