1.退職時、有給休暇は使える?
会社を辞める段になったら、たまりにたまった有給休暇を全部消化してから退職したい、と考える人は多いでしょう。
そもそも日本人の有給休暇消化率は世界的に見ても極めて低く、有給休暇が毎年積み上がっているという人はざらにいます。
さて、退職時の有給休暇について解説する前に普段の有給休暇取得のルールについて説明していきます。
実際は、この基本的なルールですら無視されている状況ではありますが、建前上、こうなっているという原則です。
普段、社員が有給休暇をいつ取得するかは、社員が勝手に決めることができます。
また、これも守られていないことが多いのですが、有給を取得する理由を会社に具体的に説明するような義務は一切ありません。
本来、
「私用です」
の一言で済むものなのです。
有休取得の理由を社員に聞くぐらいは構いませんが、「そんな理由で休むのはダメだ」といった有休取得拒否は許されません
世の中には、有給取得する場合、上司にその理由を説明して、上司が納得したら有給休暇を取得することを認める、などというルールを運用している会社がありますが、組織ぐるみで労働基準法違反を推奨しているようなものです。
(根拠は、労働基準法第39条)
要するに、会社は、社員が「この日に有給を取得します」と申請したら、原則何も文句をいわず、有休取得の理由で拒否せず、有給休暇を認めさせなければならないのです。
2.会社が、有給休暇を取る日を制限することもある
前項で、有給休暇は、社員が好きなときに自分の意思で取得できることと、その理由を説明しました。
基本的に、会社は社員が有給休暇の取得を申請してきた場合は認めなければならず、理由によって有休取得を拒否するといった運用は労働基準法違反となります。
しかし、現実にはこのように、自由に有給休暇を取得できるような職場はほとんど存在しないでしょう。
会社側としては、有給休暇の取得=「働きもしない時間に、なぜ給与を支払わなければならないのだ」という発想があるからです。
このため、有休取得の理由で却下したりと、法律違反をしてでも(却下している上司には、法律違反という自覚がないことがほとんどです)社員の有休取得を阻止しようとします。
このため、日本の有給休暇消化率は、世界的に見ても最低水準で推移しているのです。
しかし、会社が有給休暇の取得を制限する権利を、正式に法律が認めているケースもあります。
それは、「その日に有給休暇を取得すると、会社の正常な運営ができなくなる」場合です。
要するに、「●月●日に抜けられると、シフトが組めなくなる」という事情がある場合に限り、有給休暇の取得を制限することが認められているのです。
とはいえ、あくまで可能なのは「有給休暇の制限」であって、「有給休暇取得の拒否」ではありません。
この場合に認められているのは、「有休取得を別の日にしてください」という、日程変更にとどまります。
これを、時季変更権といいます。
しかし、これも会社が無制限に行使できるわけではありません。
「ある程度の努力をしたが、どうしてもその日に労働力が確保できなかった」
「その日は重要な取引先との商談があるので、その社員にも参加してもらう必要がある」
といった事情がある場合に限られます。
単に「忙しいから」では認められません。
時季変更権だけを見ると
「会社が忙しいこの時期に、休みたいとは何事だ」
と会社が言える権利のように思えますが、そこまで強い権利ではないのです。
3.引き継ぎが終わらない場合、有給休暇はとれない??
ここまで、普段の有休取得の原則についてお話してきました。
・有給休暇は、社員が自由に取得でき、会社は拒否できない
・会社は、有休取得の時期を変更することのみ可能
もちろん、これが実現できている会社などは有名企業・一流企業であっても滅多にないことは重々承知していますが、法律上はそうなっています。
さて、こういった原則を踏まえて、退職時の有休消化について見ていきましょう。
多くの方が希望するのは、「退職時には、せめて今まで使えなかった有給休暇をまとめて取得してから辞めたい」ということです。
結論から先に書きますが、「退職時であろうが何だろうが、有給休暇は取れて当然」です。
つまり、社員の退職時、有給休暇をまとめて消化することを希望した場合、会社は拒否することはできません。
そこで、有給休暇を取得させない手段として出てくるのが、前回お話しした「時季変更権」です。
つまり、「引き継ぎも終わらないのに有給休暇を取るとは何事だ」「引き継ぎをきちんとしてから有給を取れ」と命令して、そのまま退職日までなし崩し的に出勤させるような手口です。
これは、一見、合法のように思えます。
退職する社員の仕事を引き継ぐことはその社員にしかできませんから、会社が有休取得を制限して、引き継ぎ優先を命じるのは仕方がないからです。
・・・ということは、法律上認められていません。
なぜかというと、時季変更権が成り立つ条件を満たしていないからです。
時期変更権が成立するには、代わりの休暇を与えなければなりません。
退職する場合、その「代わりの休暇」を与える機会が今後訪れることはありません。
そのため、退職時に行う有給休暇の取得に関しては、時季変更権そのものが成立しないのです。
上司がしたり顔で「引き継ぎをしないで休むわけにはいかないだろう」と言ってきた場合は、退職日を先延ばしにしてもらうなど、譲歩を求めても全く構わないのです。
退職日の先延ばしも認められない場合、とっとと有休休暇の消化に入ってしまいましょう。
引き継ぎが終わっている・いない関係なしに、有休消化する権利が社員にはあるのです。
4.まとめ
・退職時、残った有給休暇をまとめて取得するのは正当な権利で、会社が文句を言う権利はない
・会社には「有給を取る時期をずらしてくれ」と指示する権利はある。しかし、時期をずらしたら有給休暇を消化できなくなるような変更はできない。
・引き継ぎが終わらない場合でも、有給休暇の消化に入ってしまっても、会社には懲戒処分などを行う権限はない。