■ 第78回 マクドナルドとセブンイレブン
2008年1月、
東京地裁は日本マクドナルドに対し、
「(マクドナルドの)店長は管理職とは
言いがたいので残業代を払いなさい」
という判決を出しました。
これに対し、マクドナルドの原田社長は
「労働時間に関係なく成果を出すのが店長」
として、争う姿勢を見せています。
一方、セブンイレブンは、
2008年3月から店長に残業代を支払うと発表しました。
さて。
これは、マクドナルドがせこくて、
セブンイレブンが太っ腹・・・
などという単純な話ではありません。
セブンイレブンの場合、
残業支給の対象になる店長は直営店の店長です。
これは、対象者が約500人。
セブンイレブンの店舗数は約11,000ですから、
全体からすると5%未満です。
しかも、あまり報道されていませんが、
残業代を支給する代わりに
店長としての手当ては減額するようです。
企業収益全体に与える影響は
さほど大きなものではありません。
そして、マクドナルドの裁判が報道されて
関心が高まっているときにすかさず発表。
世間的には、いいイメージアップ
になったのではないかと思います。
一方、マクドナルドは直営店の比率が
全3,800店舗中、7割に及びます。
また、正社員約2,400人中、
3分の1にあたる800人が店長だそうです。
この全てに残業代を認めてしまえば、
さすがに企業収益に重大な影響が出ます。
(だから認めないでいい、という話では当然ありません)
マクドナルドはこういった問題が
起きることを予測していたのか、
直営店の比率を減らし、
フランチャイズ店の比率を上げている最中でした。
フランチャイズは、
雇用契約ではありませんので
残業の問題は発生しません。
こういった事情があり、
マクドナルドの社長は
すんなり残業代を認めるわけには
いかないのでしょう。
収益が落ちれば株主から突き上げられ、
自身の進退問題にも関わってくるからです。
それにしても見事なのは、
セブンイレブンの発表のタイミングです。
多くの方が
「セブンイレブンはクリーン、マクドナルドは汚い」
という印象を持たれたようです。
しかし、マクドナルドはマクドナルドで、
「争ったほうがまだマシだ」
という判断を下したからこそ
争っているに過ぎません。
セブンイレブンとは、台所事情が違うのです。
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■ 編集後記
私個人としては、
今回の件、いろいろ考えさせられました。
マクドナルドの社長にしてみれば、
「残業代を認めれば
企業収益が落ちて株主から叱責される」
「残業代を拒否すれば世間から叩かれる」
ということで、
どうすればいいんだよ、
という気分かも知れません。
といっても労働基準法違反は明らかで、
これは擁護しようがありません。
企業の収益が、
法令をまともに守らないことを前提に
成り立っている。
これが諸悪の根源なのではないでしょうか。
2.2,017年も、相変わらず
1.を書いたのは2,008年と、
もう9年も前の話になります。
しかし、労働者に
「異常な長時間労働」
を強いることで利益を上げる、
いわゆる「ブラック企業」
は減るどころか
一貫して増え続けてきました。
有名牛丼チェーンのすき家を展開する
ゼンショーは、
ワンオペと呼ばれる
店舗をアルバイト一人に切り盛りさせる手法で
利益を上げていました。
また、アルバイトの身分でありながら
アルバイトを生活の最優先事項にされてしまい、
大学の試験すら受けられず留年した、
というワケが分からない現象も
報道されています。
日本を代表する広告代理店である電通でも、
2,015年末に入社9ヶ月目の女性社員が
過重労働に追い詰められた結果、
自ら命を絶ちました。
この件では、
すでに労災が認定されています。
世間的な風潮としては
「命を削ってまで仕事をする必要はない」
と考える人が増えていて、
それはそれでいいことです。
しかし、
そう考える人が増えたところで、
会社の上層部が
「仕事を全てに優先するのが当然」
という価値観であれば、
ブラック労働は改善されるはずもありません。