■第86回 会社に損害を与えたら全額弁償か？
仕事をしていて、
会社に損害を与えてしまうことは
誰にでも起こり得ます。
例えば、会社の備品を無くした、
商品を落として壊してしまった・・・
などです。
このような場合、
社員が全額弁償しなければ
ならないのでしょうか？
多くの会社では、
「お前の責任なんだから弁償しろ」
という話にされてしまうようです。
特にワンマン経営の会社でありがちです。
中には、有無を言わさず
給料から天引きする会社もあります。
さて、このような取り扱いですが、
正当なものなのでしょうか？
答えは、「正当ではない」です。
といっても、
「社員は一円も損害を負担しなくてよい」
という話ではありません。
損害は、会社と社員両方が負担する
というのが裁判所の判断になっています。
社員が会社に損害を与えたといっても、
企業の営業活動上で起きてしまったことです。
会社は、社員に営業をさせた上で
利益を得ているのですから、
その過程で起こりうるリスクを
全部社員にかぶせるというのは
虫が良すぎます。
「余りにもうっかりの度合いがひどい場合」
や、
「過去に何回も同じミスをしていて、
またやった」
場合は社員の負担割合が大きくなりますが、
それでも全額はやりすぎです。
裁判所の判例では、
上限でも25%まで・・・
というのが定着しつつあるようです。
（最高裁判所昭和51年7月8日 茨城石炭商事事件）
また、ムリヤリ天引きすることも
許されていません。
「給与は全額支払いなさい」
と法律で決められているので、
社会保険料や税金以外のお金は
勝手に天引きはできないことになっています。
この場合は、
天引きされる側の承諾が必要で、
会社が勝手に天引きすることは許されません。
関連記事：
■ 編集後記
社員に全責任を負わせようとする社長には、
共通する特徴があります。
口ぐせが「自己責任」。
この言葉を使いたがる人に限って、
「自分は一切責任を取ろうとしない」
のはなぜなんでしょうか？
Ｑ＆Ａ
Ｑ．会社から損害賠償請求されています。
先日、会社を退職しました。
もともと転職先が決まっていて、
現在はその会社で働いています。
その後、会社から連絡が届きました。
それによると、
在職中に私が担当していた顧客から
売掛金が回収できていないことが
社内で問題になっている、
ということでした。
会社の言い分は、下記の通りです。
「お前の顧客だったのだからお前の責任」
「未回収の売掛金を支払ってもらう」
「支払わない場合は、訴える」
「転職先に給与差し押さえをかける」
私からすると、
ほとんど脅しにしか思えない
文言が並んでいる印象を受けます。
確かに、支払いが滞っている顧客はいました。
しかし、もちろん上司から追及されるため、
経緯はきちんと説明していました。
また、放置していたわけでもなく、
定期的に請求をかけていました。
私が転職した後に、
いきなり未払い売上の矛先を
こちらに向けてくる、
というのは理不尽きわまりない行為
に思えます。
しかし、せっかく転職した会社に、
給与差し押さえなどされてしまっては、
今後の出世も望めなくなってしまいます。
会社が言うような請求は、
本当に正当なものなのでしょうか？
払わないと訴えられ、
給与差し押さえされるのか・・・
と考えると、
不安でどうしようもありません。
Ａ．会社の要求には、根拠がありません。
よって、「法的根拠がない請求である」
ことと、「支払う意思は一切ない」
ことを会社に伝えれば済む問題です。
そもそも、会社と取引先の契約なのに、
その未払いの矛先が担当社員に来る、
というのはムチャクチャな話です。
あなたが、取引先の連帯保証人にでも
なっていれば話は別ですが、
そんなバカな話はあり得ません。
また、上司にはたびたび報告も
していたということですから、
なおさら、あなたには責任はありません。
少なくとも、
担当の営業社員として
最低限の業務は遂行していると
解釈されるからです。
会社があなたを訴えるにしても、
訴える根拠が全くありません。
売上が回収できないため
他から回収しよう、という
発想に至ったのでしょうか。
借金を本人から取れないと
保証人でもない親から取り立てようとする
貸金業者がいますが、
それよりも酷いレベルの言いがかりといえます。