1.解雇されたら、有給休暇は?
退職時の有給休暇取得、続きです。
原則を再確認しておきましょう。
会社を辞めるときにまとめて有給休暇を取る場合、下記のようなルールが適用されます。
・有給休暇は、社員が自由に取得でき、会社は拒否できない
・会社には、有給を取る日を変更する時季変更権があるが、退職時はそれが無理なので社員が希望した場合に拒否することは事実上不可能
さて、今回は解雇された場合の有休取得について見ていきましょう。
退職するときに、有給休暇をまとめて取得したい、というときに起きる問題点は、解雇の場合も自主退職するときと変わりありません。
解雇は、解雇予告日の30日より前に行う必要があります。
30日を切ってしまってから解雇予告をした場合は、解雇予告手当を支給しなければなりません。
では、この30日間を有休消化にあてることは許されるのでしょうか?
これは、可能です。
解雇することが決定したとはいえ、解雇の日までは、社員としても身分が継続しています。
言い換えると、解雇予告されたかどうかに関係なく有給を取得する権利は残っているのです。
なお、有給休暇は、退職時点で全部消滅します。
たまに会社を辞めた後、
「残った有給休暇を消化させてもらえなかったので、今から会社に要求して有休消化を認めさせたい」
と相談される方がいます。
しかし、これは「退職日時点で有給休暇が消滅している」ことを考えると、要求に根拠がないことになり、極めて難しいと言わざるを得ません。
2.退職時、有給休暇の買い上げは可能か
有給休暇は、最高で毎年18日付与されますが、実際のところ、ほとんど消化できていない人が多いと思います。
まず、有給休暇を取得しにくい雰囲気の職場が多く、いざ申請したら理由を根掘り葉掘り聞かれたりと、有給ひとつ取るのに多くのハードルが存在するのです。
結果として、日本の有休消化率(有給休暇を付与されたうち、どの程度消化したか)は、2,014年時点で6年連続で世界ワースト1位となっています。
さて、この余った有給休暇ですが、「どうせ消化できないのであれば、会社に買い取ってもらいたい」と考える人も多いようです。
しかし、有給休暇の買い上げは、労働基準法違反になるのです。
労働者を保護するはずの法律、労働基準法で「労働者が希望する有給休暇買い上げ」が禁止というのも不思議な感じがします。
しかし、これにはちゃんとした理由があります。
休暇というのは、もともと「心身を休め、仕事の疲労を回復するとともに、その後の仕事に必要な英気を養う」ことを目的に与えられるものです。
有給休暇をお金で買うと、この「心身を休める」「仕事の疲労を回復する」という本来の目的が達成できません。
このため、有給休暇の買い上げは禁止されています。
しかし、退職時に限っては話は別です。
退職する以上、「心身を休める機会」をわざわざ設ける必要はありません。
退職したら、しばらくの間はずっと休みになるからです。
このため、退職時に限り、有給休暇の買い取りが認められています。
しかし、この有給休暇の買い取りはあくまで「認められている」だけで、会社の義務ではありません。
会社が有給休暇の買い取りを拒否した場合、残念ながらそれを強制する方法はありません。
3.もらいそこなった給与や退職金はいつまで請求できる?
労務管理がいい加減な会社の場合、社長の一存で突然、クビを言い渡されてしまうことも珍しくありません。
「お前はクビだ。明日からもう来なくて構わない」
というわけです。
もちろん、このような解雇は違法なのですが、会社にとどまらずに、そのまま辞めたいということも多いでしょう。
社長に権力が集中し過ぎているような会社は、おうおうにしてブラック企業化していることが多いものです。
勤め続けていても、キャリアも積めなければ心身も疲弊していくのであれば、見切りをつけるのも手です。
さて、会社を辞めたはいいものの、ブラック企業が相手だと、さらなる面倒に巻き込まれることが多々あります。
その典型的なパターンが、「給与の未払い」「退職金の未払い」です。
会社は、辞める社員には1円だってお金を支払いたくない、というのが本音です。
もちろん、給与の支払いは法律で義務づけられていますから、払いたくないからといって会社が支払いを拒否することはできません。
(退職金の支払い義務があるかどうかは、会社の制度によって異なります)
しかし、法律を守らないのがブラック企業がブラック企業たるゆえんです。
この場合、給与や退職金がいつまで請求可能なのかを覚えておくとよいでしょう。
給与は2年、退職金は5年です。
会社を辞めた後であっても、支払い日からこの期間内であれば請求することが可能です。
といっても、ブラック企業はいつ雲行きが怪しくなっても不思議ではありません。
未払いになった給与や退職金がある場合は、早め早めに請求しましょう。
なお、未払い残業代も給与に該当しますので、2年間は請求が可能です。
4.まとめ
・退職時でも、有給休暇の消化は問題なし。
・退職時、残っている有給休暇を買い取ってもらうことは可能。しかし、強制力はないので、会社の方針次第。
・会社からもらっていない給与は2年、退職金は5年で時効にかかり、もらう権利がなくなる。
退職時の有給休暇については、特に会社から圧力がかかりやすい分野です。
「引き継ぎも終わらないのに有給消化など、社会人としてけしからん」といった具合ですね。
確かに引き継ぎはきちんと終えてから退職するのが社会人としての礼儀ではありますが、それなら退職日を後ろにずらすのが、法的には正しいやり方です。
会社が持ち出す、変な精神論に乗せられないように注意しましょう。